約 1,076,864 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/283.html
使い魔波紋疾走(オーバードライブ) 使い魔波紋疾走-1 使い魔波紋疾走-2 使い魔波紋疾走-3 使い魔波紋疾走-4 使い魔波紋疾走-5 使い魔波紋疾走-6 使い魔波紋疾走-7 使い魔波紋疾走-8 使い魔波紋疾走-9
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1591.html
いきなりルイズの部屋に現れたアンリエッタ「王女」は、 あれだけ周囲を警戒してこっそりと来たのにも拘らず、ルイズと大声で雑談を始めてしまった。 もちろんセッコは完全無視で。 寮だから両隣の部屋に人いるんだけどなあ。 それ以前にまだ廊下に人通る時間だし。こいつも脳にカビ生えてんのか。 つーか居辛いことこの上ねえ。 「あー・・・ルイズよお、外行っていいかなあ」 「ダメよ。」 言うと思ったぜ。 「あら、ごめんなさい。もしかして、お邪魔だったかしら?」 アンリエッタが初めてオレの存在に気づいたみてーだ。 じゃあ最初の探知っぽい魔法は何だったんだよ。 「お邪魔?どうして?」 「だって、そこの彼、あなたの恋人なのでしょう?いやだわ。 わたくしったら、つい懐かしさにかまけて、とんだ粗相をいたしてしまったみたいね。」 ルイズが微妙な顔で言い返す。 「いえ姫さま、邪魔なんてことは全然。こいつはわたしの使い魔ですよ。」 「使い魔?これ、人じゃないんですか?」 「多分人だとは思いますけど、使い魔です。」 「ルイズ・フランソワーズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね」 「わりと頼りになりますよ。姫さま。」 「そ、そう。」 そんな何ともいえない会話は延々と続いた。 もうついていけねえ、寝てやろうか。 さすがにそれはまずいかなあ。 セッコが苦悩していると、突然アンリエッタの口調が変化した。 「ああ、ルイズ・・・」 わざとらしいほどに大きなため息をつく。 「姫さま?!」 ルイズがわざとらしく大げさに驚く。 「わたくしは、ゲルマニアに嫁ぐことになったのですが・・・」 更にため息は繰り返される。 「ゲルマニアですって!あんな野蛮な成り上がりどもの国に!」 大げさ度アップ。 「そうよ、でも、仕方がないの。同盟を結ぶためなのですから。」 そしてアンリエッタは、ハルケギニアの政治情勢をルイズに説明しはじめた。 アルビオンの貴族たちが反乱を起こし、今にも王室が倒れそうなこと。 反乱軍が勝利を収めたら、次にトリステインに侵攻してくるであろうこと。 それに対抗するために、トリステインはゲルマニアと同盟を結ぶことになったこと。 同盟のために、アンリエッタ王女がゲルマニア王室に嫁ぐことになったこと。 そして・・・ これはヤバい話なんてもんじゃねえ。 オレは聞いてないオレは聞いてないオレは聞いてない・・・ 毛布を頭まで被り、そっと部屋の隅へ移動。 しかし。 「セッコ、姫さまの御前よ。ちゃんと聞きなさい。」 「うう…わかったよお。」 畜生。 「そうだったんですか・・・」 ルイズが沈んだ声になっている。 あんまりいい話でないのは確かだが、仕事なら仕方ないんじゃねえのかな。 オレだってどうせならもっと強くて冷静な奴と組みたいけど選択肢ねえし。 「いいのよ、ルイズ、好きな相手と結婚するなんて、物心ついたときから諦めていますわ。」 「姫さま・・・」 「礼儀知らずのアルビオンの貴族たちは、トリステインとゲルマニアの同盟を望んでいません。 二本の矢も、束ねずに一本ずつなら楽に折れますからね。」 矢二本じゃあ束ねても折れるだろ。せめて三本。 「・・・したがって、わたくしの婚姻を妨げるための材料を、血眼になって探しています。」 「で、もしかして、姫さまの婚姻を妨げるような材料が?」 ルイズが顔を蒼白にして尋ねる。 「おお、始祖ブリミルよ・・・。この不幸な姫をお救いください・・・」 「言って!姫さま!一体、姫さまのご婚姻を妨げる材料って何なのですか?」 うばあああああお願い言わないで王女様おあああ、機密事項だよなあ?よな? しかし、セッコのかすかな期待は当然というべきか裏切られた。 「・・・わたくしが以前したためた一通の手紙なのです」 「手紙?」 「そうです。それがアルビオンの貴族たちの手に渡ったら、彼らはすぐにゲルマニアの皇室にそれを届けるでしょう。 どんな内容かは言えませんが、きっとゲルマニアとの同盟は反故になってしまうでしょう。」 ルイズは息せきって、アンリエッタの手を握った。 「一体、その手紙はどこにあるのですか?トリステインに危機をもたらす、その手紙とやらは!」 アンリエッタが首を振る。 「それが、実はアルビオンにあるのです。」 「えっ、それではもう・・・」 「いえ、手紙を持っているのは反乱勢ではありません。アルビオン王家のウェールズ皇太子です。そして・・・」 「そして?」 「遅かれ早かれ、ウェールズ皇太子は反乱勢に囚われてしまうわ!そうしたら、 あの手紙も明るみに出てしまう!そして破滅です!何もかも!」 ルイズが息をのんだ。セッコはうなだれた。 「では、姫さま、わたしに頼みたいことというのは・・・」 「無理、無理よルイズ!わたくしったら、混乱しているんだわ! 考えてみれば、貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険なこと、頼めるわけがありませんわ!」 セッコの表情がぱっと明るくなる。 うん、うんうんっ、友人にこんな討ち死に前提の命令なんてしねえよな。 よしッ!! 「何をおっしゃいます!たとえ地獄の釜の中だろうが、竜の顎の中だろうが、姫さまの御為とあらば、何処なりと向かいますわ! 姫様とトリステインの危機を、このラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ、見過ごすわけにはまいりません! このわたくしめにその一件、是非ともお任せくださいますよう!」 ルイズはそう言いつつ、膝をついて恭しく頭を下げた。 げんなりしてセッコの頭が下がった。 目の前ではルイズとアンリエッタが延々と友情を確かめあいつつ任務の話をしている。明日の朝出発ってマジか。 行くこと自体はもうどうしようもねえ、だが馬で行くのは勘弁して欲しい。 そうだ、早くて快適な乗り物があるじゃねえか。 もし手伝ってくれるならそんな頼もしいことはねえ。そうしよう。 「ちょっと、話の途中よ。どこいくのセッコ」 ドアに手をかけたところで、ルイズに後ろから呼び止められる。 「明日の朝出発するんだよなあ?」 「そうだけど」 「ちょっと準備。」 「そう」 言いつつドアを開けて飛び出す。外の空気、うめえ! と、誰かにぶつかった。そいや足音は2つだったっけなあ。 「あっと、従者さんすまね。」 アンリエッタが振り返り口を開いた。 「いえ、ここには一人で来たはずですが・・・」 ならこれは誰だあ? 顔を見る。ルイズもドアから身を乗り出した。 「「・・・ギーシュ?」」 しかし、ギーシュはルイズとセッコを無視してアンリエッタの前に跪いた。 「姫殿下!その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せ付けますよう!是非!」 ルイズは微妙な顔でギーシュを見ている。 アンリエッタは首を捻っている。 セッコは代わりにギーシュがやってくれるならちょっとラッキー?と思った。 「グラモン・・・グラモン・・・ああ、あのグラモン元帥の?」 アンリエッタがギーシュに向き直った。 「そうです!息子でございます、姫殿下!」 そして恭しく一礼する。 「あなたも、わたくしの力になってくれるというの?」 なんだ、“も”かあ。期待はしてなかったけどよ。 「任務の一員にくわえてくださるなら、これはもう望外の幸せにございます」 「ありがとう。お父様も立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいるようね。 ではお願いしますわ。この不幸な姫をお助けください、ギーシュ・ド・グラモン。」 ギーシュは感極まった様子で打ち震えている。大丈夫かなあ。 戦力は一応増えた。 だが、一人増えたことにより、タバサに頼んで途中までシルフィードを使うという 楽かつ素早い作戦は、完全に失われてしまった。 確かオレの記憶によるとシルフィードの積載は3人が限界だ。 「結局馬かあ・・・。」 「何よセッコ。最初から馬だって言ってるじゃない。」 「うう。」 ルイズは表情を引き締めると、アンリエッタに再び顔を向けた。 「では、明日朝よりアルビオンに向かって出発いたします」 「ウェールズ皇太子は、アルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞き及びます。」 「判りました。以前幾度か旅行しておりますので、地理は大丈夫です」 「それは頼もしいですわね。あ、そうだわ。」 アンリエッタはルイズの机に座ると、何かを書き始めた。そしてぽつりと呟く。 「ああ、やはりわたくしは、自分に嘘はつけません。」 「いきなりどうなされました?姫さま?」 ルイズが怪訝な顔でアンリエッタを見る。もちろんオレも。 「な、なんでもありません。やだわたくしったら独り言なんて。」 そう言うと、更にもう1文をしたため、それに封をした。 「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡してあげてください。すぐに件の手紙を返してくれるでしょう。 それと、もし、もしですが、ウェールズ皇太子と連絡が完全につかない場合、これは焼き捨ててください。」 「判りました。この任務。絶対に成功させてみせますわ姫さま」 「ありがとう、ルイズ。それと、このお願いは公にできないので、 表立って何かをしてあげることができません。代わりと言ってはなんですが、この[水のルビー]をあなたに託します。 母君からいただいたものですが、もしお金が心配なら、売り払ってもらってもかまいません。」 アンリエッタは、自らの指から外した指輪をルイズに手渡した。 ルイズは深々と頭を下げ、それを指にはめた。 「この任務にはトリステインの未来がかかっています。 母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風から、あなた方を守りますように」 そう言い残すと素早くアンリエッタは去っていった。 さて、明日早いらしいし寝るかあ。 「あんなお願いを聞かなきゃならないなんて、貴族ってわかんねえな。」 「きっと永久に判らないわ、そういうもんなの。悪いけどセッコにも協力してもらうわよ」 「なんだ、オレが嫌がってんの知ってたのかよお。」 「わたしはあなたの主よ。馬鹿にしないで」 「・・・そうか。」 こういう命令、前もあったような気がするなあ。 ええと・・・あれは・・・なんかの秘密を・・・Zzz 部屋の壁に耳をくっつけ、一部始終ずっと聞いていたキュルケが呟いた。 「なんか、面白そうなことやってるじゃないの。」 To be continued…… 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1868.html
天守の一角、ウェールズの居室。その窓の外にワルドは立っていた。玉砕戦の前夜と言う事もあり、平素ならいるような警備のメイジもいない。明日に備えて休養を取っているようだが、甘い考えだと嘲笑する。 そのような考えだからアルビオン王国はレコン・キスタに敗北してしまったのだ。決戦前夜だからとて、暗殺者が入り込むかもと言う考えに至らない時点で、程度が知れるというもの。 残酷で嗜虐的な笑みをもはや隠すこともせず、フライの魔法を解いて屋根に降りる。 下を見れば誰の姿も無い。あの使い魔はまんまと逃げおおせはしたが、王子の暗殺を止められはしない。 まずウェールズを暗殺した後、ルイズを殺し手紙を手に入れればいい。 ワルドは口の端を吊り上げ、呪文を詠唱する。 ウインドブレイクの魔法で容易く窓を吹き飛ばし、居室に素早く踏み込みながら次の呪文を既に完成させていた。 『エア・ニードル』。杖を中心として風を渦巻かせ、杖自体を鋭い刃と変化させる魔法である。 二つの月の光を背に浴び、ベッドで何も知らず寝ている王子目掛け、二つ名の『閃光』の名の通り稲妻の如き不可避の突きを繰り出し―― ワルドは、大量の金属球が混ざった爆風をその身で浴びることとなった。 ちょうど同じ時、ジョセフは天守を見上げ、窓から弾き飛ばされるワルドを悠々と見上げていた。 「やッチッたァーーッッッ!!」 静かな月夜をつんざく爆音と、年甲斐も無く歓声をあげる老人。 ジョセフはとっくの昔に手を打っていた。 ワルドのおおよその策略を看破したジョセフは、パーティから戻る途中のギーシュ達に頼み、ビー玉程度の大きさの金属球を1kgほど錬金してもらったのだ。 それから三人に、ウェールズへと伝言を頼む。 『アンリエッタ王女からもう一つ渡さなければならないものを預かっている、人目に付くと良くないのでこの時間に礼拝堂に来てもらえないか』と言う体裁で、ウェールズを密かに呼び出していたのだ。 正にこの時、ウェールズ皇太子は三人の少年少女と共に礼拝堂にいる頃である。約束の時間からはやや遅れ、王子を待ちぼうけさせている不敬の真っ最中ではあるが、命を救う行為であるため、お目こぼしを期待したいところである。 ウェールズが嘘の伝言で礼拝堂に向かった直後、無人の部屋に忍び込む人物がいた。言わずと知れたジョセフ・ジョースターである。 ジョセフは密かにベッドにトラップを仕掛けた。 まずベッドの上の毛布を一枚取り、これに厨房から失敬してきた油を塗り込んで波紋を流す。 続いて先ほど錬金してもらった金属球、これにも油を満遍なく混ぜこぜ、こちらには反発する波紋をたっぷり流す。 波紋を流した金属球をしっかり波紋毛布で包み込むことにより、言わば電子レンジで加熱したゆで卵のような代物が出来上がる。こちらは破裂すれば卵の代わりに金属球がはじけ飛ぶ物騒な爆弾であるが。 これに多少強い衝撃を与えれば、ボンと爆発し――今しがたワルドが吹き飛ばされたような惨状を引き起こすこととなる。 続いて掛け布団で波紋ゆで卵を包み、人が寝ているように形を整える。月明かりだけではそうはバレない珠玉の造詣は、ジョセフ会心の出来だった。 最後に窓を閉めて何食わぬ顔で部屋に戻ると、ルイズにハーミットパープルで波紋をちょっと流して起こし、ワルドに結婚を断らせに行く事で裏切り者の本性を暴き出す。自分達はまんまと逃げおおせることで残った一つの目的、ウェールズの暗殺に向かわせたのである。 (王は暗殺してもしなくても大勢に関係が無いというのは、パーティのスピーチからして明白である。となるとワルドがターゲットにするのはウェールズ一人、という解答に辿り着くのは簡単なことだった) 果たしてワルドは見事ジョセフの術中に落ち、金属球の洗礼を浴びることとなった。 天守から叩き落されながらも、さすがは魔法衛士隊隊長と言うべきか、空中でフライの魔法を辛うじて唱え、地面に叩きつけられる事態にまでは至らなかった。 だがしかし、静かな夜に轟いた爆音である。 精鋭とも呼べるニューカッスル三百の貴族達がおっとり刀(この場合はおっとり杖と称するべきか)で駆け付けて来るのは想像に難くない。 ワルドは怒りのみで象られた視線でジョセフを見下し、睨み付けた。 「……やったな、やってくれたな、ガンダールヴ!!」 「てめェのやっすい陰謀なぞとうの昔にお見通しじゃわい、我が友イギーの技を参考にした、名付けて『愚者に対する波紋疾走(フールトゥオーバードライブ)』の味はいかがだったかなッ。随分と堪能してくれたようじゃないか、ワ・ル・ド・し・し・ゃ・く・ど・の?」 クックック、と人を大馬鹿にした笑いでワルドを見上げる。 自慢の羽帽子もマントも言うに及ばず、ワルド本人も金属球の嵐に巻き込まれかなりの手傷を負っている。 火薬での爆発には及ばないものの、波紋の爆発で放たれた金属球は人一人に対して十分過ぎるほどの殺傷力を持っている。 ジョセフとしては、金属球のトラップで仕留める腹積もりであった。 だが悪運強く生き残られた場合の手段も、既に用意してきている。 ジョセフは、マヌケな獲物をからかう笑みを崩さぬまま言葉を続ける。 「さァて、と。もーそろそろこの騒ぎを聞きつけたメイジ達がアワ食って押しかけてくる時間じゃな。まさかグリフォン隊元隊長でスクウェアメイジのワルド子爵が、たかが使い魔にコテンパンにのされて尻尾巻いて逃げ帰るとか、そォんなミジメ~ェな結果で帰れるんかなァ!?」 ジョセフにとって、ここでワルドと対峙したままメイジ達に駆け付けられるのが尤も避けたい事態だった。 ここでワルドが「この平民が王子の部屋を爆破した」とたった一言言えば、一斉にメイジ達の杖がジョセフに向くことは火を見るより明らかである。貴族と平民の言を貴族がどう判断するか、ジョセフでなくとも想像するのは簡単である。 だからこその、普段より毒を増した舌鋒であった。 平素のワルドならばこのような安い挑発に乗りはしなかっただろう。 だが、散々忌まわしい平民に自分の策略を打ち破られた今、挑発に乗らずにはいられなかった。 「――いいだろう、ガンダールヴ!!」 ジョセフは、く、と口の端を吊り上げた。 ワルドは地面に降り立ち、フライの魔法を解いた。 これまでの様に余裕めかした表情など、ワルドには存在しない。 ジョセフもまた、同じだった。 相対した互いの表情を占めるのは、種類は違うものの、純粋な怒りのみ。 腰に下げていたデルフリンガーを抜刀すれば、右手に錆び付いた大剣、左手に毛布と言ういささか珍妙な様相で構えるジョセフ。 デルフリンガーはおおよそ無駄だとは判り切っていたものの、とりあえず金具を鳴らして喋った。 「なーあ、そこのボウズよ。今なら、多分まーだ間に合うんじゃねーかなぁ。ここで謝って土下座の一つでもすりゃー、許してもらえるかもしんねーぜー?」 たかがインテリジェンスソードごときの戯言を聞き入れる必要など、ワルドには存在しない。せめてもの忠告を文字通り黙殺されたデルフは、あーあ、と溜息をついた。 (知ーらね。相棒は自分の右腕が焦がされたことより、貴族の娘っ子が侮辱されたことに怒るタイプなんだよなぁ) 他人事めいたモノローグはさて置いて、デルフはジョセフからひしひしと伝わり過ぎる心の震えに、ふと思い出した。 「おー、そうだ。思い出したぜ相棒!」 「なんじゃデルフ、こんな時に」 声そのものは普段と変わらない。だが今もジョセフの心には凄まじい怒りが渦巻いていた。 「そー言や相棒はガンダールヴだったよなぁ」 軽口を叩きあう一人と一振りをよそに、ワルドは既に呪文を完成させていた。 「そうは言われてるが、どうしたッ?」 「いやぁ、俺は昔、お前に握られてたぜガンダールヴ。だーが忘れてた、六千年も昔のことだったからな!」 ジョセフが返事する前にワルドのウインドブレイクが襲い来るが、ジョセフは慌てるでもなく左手に構えた毛布を、闘牛に対するマタドールのような鮮やかな動きで振るった。 本物のマタドールなら向かってくる牛の角を避けるものだが、毛布を振るったガンダールヴは一歩たりとも動いていなかった。 波紋を流された毛布は、風のハンマーに対抗しうるだけの強度を手に入れており、ウインドブレイクは毛布の一撃に消し飛ばされていた。 「我が師にして我が母、エリザベス・ジョースターの技! 闘牛毛布(マタドールブランケット)ッ!!」 「ひゅー、さすがだな相棒! お前もうちょっと真面目に修行すりゃもっとすげえ戦士になれんだろーに!」 「わしゃ努力が一番嫌いな言葉でその次にガンバルって言葉が嫌いなんじゃよ!」 「いやそれにしたって懐かしいな、泣けるぜ! そうか、なんか前々から懐かしい気がしてたが、相棒がガンダールヴだったか!」 「そうか! 伊達にボロボロに錆びてる訳じゃあないなッ!」 ジョセフとデルフがなおも軽口のラリーを続けている間、ワルドは間髪入れず次の呪文の詠唱にかかっていた。 聞き覚えのある『ライトニング・クラウド』の魔法に、ジョセフは内心(アレかッ! さあどうやって避けるッ!)と灰色の脳細胞をフル活動させていた。 「嬉しいじゃねえか! お前ガンダールヴか、うん! そうかそうか、そうだったら話が違う、俺がこんな格好してる場合じゃあないな!」 叫びを上げた瞬間、デルフリンガーの刀身が輝き出す! 「次は俺の番だぁな! 構えな、相棒!」 ワルドの『ライトニング・クラウド』が完成した瞬間、ジョセフはデルフの声に反応し、無意識に剣を雷撃にかざしていた。 「無駄だ! 電撃を剣で避けられると思っているのか!」 だがワルドの叫びもむなしく、電撃はデルフリンガーの刀身に吸い込まれる! 全ての電撃がデルフリンガーを吸収してしまった時、ジョセフが握っている大剣は錆び付いた古めかしいものではなく、今正に磨ぎ上げられたばかりの様な眩い輝きを放っていた。 「ほうッ! デルフ、なかなかいいカッコじゃないかッ!」 「これが本当の俺の姿さ、相棒! てんで忘れてたが、伝説のガンダールヴにゃ伝説のデルフリンガー様がなくちゃしまらねぇ! 剣が使い魔を! 使い魔が剣を引き立てるッ! 『ハーモニー』っつーんですかあーっ『力の調和』っつーんですかあーっ、たとえるならサイモンとガーファンクルのデュエット! モンティパイソンの演じるスペイン宗教裁判! 武論尊の原作に対する原哲夫の『北斗の拳』! …つうーっ感じっ、だな!」 「お前よくそんな単語ばっか知っとるな」 「多分な、俺はハルケギニアで有名な組み合わせを言ってるはずなんだわ。相棒の脳みそが相棒のよく知ってる組み合わせに翻訳してるんじゃね?」 「なるほど」 「あれよ。さすがに長いこと生きてて飽き飽きしてたんで、ちょいくらテメエの身体変えたんだよ! 面白いこたーなーんもありゃしねーし、俺に近付く連中はつまらん連中ばっかりだったからな!」 「そこでわしがあの武器屋に寄ったッつーワケか!」 「運命ってのは引力めいたモンでな、まさか使い手に再び握られるとは思ってなかったぜ! こうなってくりゃー話が変わる、ちゃちな魔法は全部この俺が吸い込んでやる! この『ガンダールヴ』の左腕、デルフリンガー様がな!」 必殺の呪文を吸収した剣に、ワルドは思わず舌打ちを漏らした。 「やはりただの剣ではなかったか……だが攻撃魔法を破っただけでいい気になるな! 何故、風の魔法が最強と呼ばれるのか、その所以を見せてやろう!!」 ジョセフは片手で剣を構え飛び掛るが、ワルドは素早い身のこなしで剣戟をかわしながら呪文を唱えていく。 「ユビキタス・デル・ウィンデ……」 呪文が完成すると、ワルドの身体が突然分身していく。 一、二、三、四体、本体と合わせて五体のワルドがジョセフを取り囲んだ。 「ほう、今更タネの割れた手品を御開帳とはな。もう少し新ネタを用意してもらいたかったモンじゃがな! 『流星の波紋疾走』を初見で避けた時点で、自分の正体バラしとるようなモンじゃないかッ!」 五体のワルドに取り囲まれながらも、ジョセフの顔には意外さも怒りも全く無い。筋書きも落ちも判っている舞台を自信満々に見せられる時と同じ、呆れた笑みが浮かんでいた。 「ふん、酒場では不意を突かれたが、たかが一体の遍在に貴様は苦戦しただろう? しかもただの分身ではない。風のユビキタス、遍在する風。風の吹くところ、何処と無く彷徨い現れ、その距離は意志の力に比例する!」 「ケッ! 笑わせるなワルドッ! このジョセフ・ジョースターに同じ手を二度も使うこと自体が凡策だという事を身を以って教えてやるッ!」 左手に靡く毛布を振りかぶり、左足を軸足として回転することで正面に立つワルド達に向かって先制の一撃を放つジョセフ。 「ぬかせっ!!」 五体のワルドがジョセフの剣と毛布を避け、踊りかかる。更にワルドは一斉に呪文を唱え、杖を青白く光らせる。先程ウェールズ暗殺に用いられるはずだった『エア・ニードル』である。 「杖自体が魔法の渦の中心だ。その剣で吸い込むことは出来ぬ!」 細かく振動する五本の杖を剣と毛布で受け、流す。しかし相手は五体。ジョセフは一人。 攻撃する間もなくひたすら防御に徹さざるを得ず、デルフはともかく毛布は度重なる風の渦の衝撃に耐え切れずに端から切り刻まれ、少しずつその大きさを減じていく。 毛布の切れ端は大きなものは地に落ち、小さなものはワルド達の巻き起こす風に吹かれて巻き上がっていた。 「平民にしてはやるではないか。さすがは伝説の使い魔といったところか! だがやはりただの錆び付いた骨董品であるようだな、風の遍在に手も足も出ないようではな!」 勝ち誇るワルドに、ジョセフは平然と言った。 「あー、ワルドよ。やっぱオマエ、戦い下手じゃわ」 そう呟いた瞬間、毛布を掴んでいた手の中に隠していたセッケン水の球を、ひょい、と宙に投げた瞬間、ジョセフのコントロールを離れた波紋はセッケン水の球を爆発させた。 しかし自分の至近距離で炸裂させるモノに殺傷力を持たせるわけには行かない。ただのかんしゃく玉程度の代物でしかなかったのだが。 「むっ!?」 突如炸裂したセッケン水の爆弾にワルド達が怯んだ瞬間、ジョセフは素早いフットワークで『ワルド達の輪の中央』に入り込んだ。 「目くらましごときでどうにかできると思ったのかガンダールヴ!」 数瞬の不意を突かれたとは言え、ワルド達にとって致命的な不利を生み出す訳ではなかったどころか、ジョセフは貴重な数瞬を死地に潜り込むに用いただけだった。 五人は一様に勝ちを確信した邪悪な笑みを浮かべ、一斉に切っ先をジョセフに向けて口走った。 「死ねい、ガンダールヴ!!」 最もジョセフに近いワルドが、ジョセフを必殺の間合いに捕らえたその時―― (わしだって自分のスタンドが戦闘向きじゃあないことは重々承知しておるッ! ハーミットパープルを放っても必ず相手を捕まえられるわけじゃあないッ……だから逆に考える。避けられないほど隙間無くハーミットパープルを放てばいいんだとな!) 「全開! ハーミットウェブ!!」 ジョセフの両腕から迸る無数のハーミットパープルが、今正にジョセフに躍りかかろうとした一体のワルドを滅多刺しにし、消し飛ばした! 「何!?」 驚きの声を上げる間もあらば、茨達はジョセフの周囲を縦横無尽に駆け巡り、ワルド達を捕らえ絡め取る! 「我が友、花京院典明の技ッ! 半径20m隠者の結界ッ!!」 ジョセフはただ無闇に防戦に回っていた訳ではなく、ましてや何の考えもなくワルド達の輪に入り込んだ訳ではない。隠者の結界を張るための準備を着々と整えていたのである。 ジョセフが用意した毛布、これはワルドの攻撃を防ぐ為のものではなく、『ワルドに切り刻ませる為』に用意していたッ! 大樹の踊り場で『流星の波紋疾走』を仮面の男が避けた時から、既にジョセフは『ワルドは何らかの手段を用いて分身している可能性』に辿り着いていた。 魔法衛士隊隊長が初見で回避すら出来なかった攻撃を避ける為には、あの攻撃を目撃するかもしくは知るかしていなければ避けることは出来ないはず。よってこの状況になれば、ワルドが分身を用いないはずはない、と考えるのは当然のことだった。 風のメイジであるワルドが風を攻撃に用いる場合、考えられる手段として女神の杵亭で見せたウインド・ブレイクに、分身が使ったライトニング・クラウドの他、カマイタチのような斬撃があるという予測に辿り着くのは簡単。 もしカマイタチがなくとも、ライトニングクラウドに焼かせればよい、という算段もあった。 しかしてジョセフの読みは完全に当たり、ワルドはジョセフの求めに応じて毛布を切り刻んだ。 激しい風の巻き起こる空間で毛布の切れ端は風に浮かんで飛び散る。 後は『毛布の切れ端』に対し、『手の中に残った毛布の残骸』を媒介としてスタンドパワーと波紋を全開にしてハーミットパープルの追跡を行うことにより、半径20mに波紋ハーミットパープルの結界を張ることに成功したのだ。 ワルドに直接放つより、空間全てにハーミットパープルを敷き詰めればよりワルド達を捕らえられる可能性は高まる。しかも平民に対する貴族の慢心、油断に加えて、一度も見せていないハーミットパープルを満を持して放つ! 結果。 一体のワルドが波紋で吹き飛ばされ、本体含めた四体のワルドはハーミットパープルに捕らえられて身動きの一つすら取れはしない。 「く……っ! 貴様、ガンダールヴ! やはり、先住魔法を使うというのか……!」 懸命に茨から脱出しようともがくワルド達だが、その度に微弱な波紋が走り抵抗を妨害していた。 「フン、先住魔法? 笑わせるな坊主ッ! これはスタンド……魂を具現化した力ッ! オマエのようにバカヅラ晒して得意満面に自分の手の内何もかもバラすドアホウにこのわしが負けるはずァなかろうがッ!」 ビシ、と指を突きつけたジョセフは、続いて鼠を嬲る猫のような笑みを見せた。 「さぁーて、どいつが本物か確かめんとなァー? 斬って捨てたら判るよなァ~~~~?」 ゆらり、と剣を振り上げ―― 「これで仕舞いじゃぞワルドッ!!」 「相棒! 右だっ!」 ワルドへ振り下ろされかけた切っ先が、右から放たれた炎の弾丸へ向きを変え、切り払う! 見ればニューカッスル城に詰めるメイジ達が駆けつけて来る姿。 (うッわ~~~ァ、もう来たのかッ、せめて後一太刀か二太刀くらい遅れんかッ!!) ジョセフの危惧していた事態が、極めて間の悪いタイミングで起こった。 天守から不穏な爆発が起こり、駆け付けて来れば怪しげな平民とメイジが対峙しているのだ。 一般的なメイジの思考としては、パーティでも多少紹介を受けたトリステイン魔法衛士隊の隊長に加勢するのは当然過ぎる話である。 ワルドもまた、この好機を指を咥えて見逃すような愚鈍ではない。 「こいつだっ! ウェールズ皇太子の暗殺を謀って居室を爆破したのはこいつだっ!」 ウェールズ皇太子暗殺未遂犯の言葉に、アルビオン王国生き残りのメイジ達の杖が、ジョセフに向けられた――! To Be Contined →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/461.html
「どうぞごゆっくり…」 ミス・ロングビルこと土のフーケ、彼女が目の前に出された料理を見る。 特に変わったようには見えないが、これがここ最近、学園でも噂の魔法の料理なのだ! ゼロのルイズ。 落ちこぼれと評判の生徒がサモン・サーヴァントで平民を呼び出した。 これだけならただの笑い話である。 そして彼がコックとわかった時、これもただのコックならさらに良い笑い話になっただろう。 だがしかし!彼はただのコックではなかった! なんと彼の料理を食べた者は健康になり、その味は天上の美味とまで称されたのである! そして、長い長い予約待ちのすえ、ついに噂の料理を味わう時がきたのである! (さ~て、噂は何処まで本当なのかしら?) 料理を食べた彼女は己の身に起こったことにただただ驚愕した! そしてその凄まじい効果に! 長年悩まされた便秘が治り、最後のデザートの美肌効果を目の当たりにしたとき 彼女は盗賊としての仕事は休業し、この学園にとどまる事を決心したのだ! 「貴方は、貴方は本当に素晴らしい料理人です、トニオさん!」 「喜んでもらえて嬉しいです」 ゼロの料理人 完
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1378.html
翌日、『竜の羽衣』こと零式艦上戦闘機を学院に運ぶべくシルフィードで学院に戻り オスマンに竜騎士隊を手配してもらいゼロ戦を運んだのだが それを見たコルベールが妙にテンパった様子で頭を…もとい顔を輝かせて『ゼロ戦』に寄ってきた。 ちなみに輸送代はギーシュの遺産+オスマンに負担させた分で全額出したので問題無い。 彼の生き甲斐は研究と発明であり、ドラゴンに運ばれてきたゼロ戦を見て、好奇心を刺激されスッ飛んで駆けつけてきた。 息切れしながら走り、ただでさえ少ない髪の毛がヤバイ事になってるのも気にしない。 「き、きみ…これは…一体何だね!?」 汗まみれの顔で質問攻めにしてくるので非常に鬱陶しい。いっその事老化させちまおうと思ったのだが その心を読んだ他の三人が悲しそうな顔をしているので止めた。 やはり、これ以上髪が減るのは見るに耐えないらしい。 「…この前、言ってたエンジンを積んでるやつで、オレんとこじゃあ、飛行機ってやつだ」 「ひこうき…?飛行というからにはこれが飛ぶというのかね!?詳しく説明してくれたまえ!!」 顔を寄せてくるコルベールをスタンドで阻む。弟分でもないオッサンの顔を至近距離で見る趣味は無い。 「そうだが…それ以上寄ると毛を抜くぞ、てめー」 ~5秒後~ 「調子乗ってスイマセンでした」 綺麗に土下座するコルベールの姿がそこにあった。 「次、その顔で寄って来たら全滅させっからな…」 スーツに中年の汗が付くと言うのは非常に避けたい事なのでこっちもこっちで結構必死だ。 土下座を終え顔を上げると、ゼロ戦の近くに寄りあちこちを探り始めそこからまた質問攻めを始めた。 「いや、ホントすまなかったからそれだけは…それでこれは羽ばたくようにできていないが、どうやって飛ぶんだね!?」 「エンジンでそこのプロペラが回って推力を得て飛ぶ」 「なるほどよく出来ておる!私の作ったエンジンでも、これと同じものが飛ぶようになれば…」 半分陶酔したような顔をしているコルベールに三人娘が引いているが当の本人は気にしていない。 「では早速飛ばして見せてくれんかね! ほれ! もう好奇心で手が震えておる!」 もうスデに彼の頭の中ではゼロ戦と自分が作ったエンジンを積んだ飛行機が大隊を組んで飛行している姿が映っているらしい。 今にも「バンザーーーーーイ」と叫んで何かに特攻しそうだったが、とりあえずガソリンが作れるかどうかを言う事にした。 「その為の燃料…風石みたいなもんなんだが、ガソリンっつーもんがねぇと飛ばねぇんだよ、そいつは」 「ガソリン…なんだね?それは」 今にも『しぶいねぇ…』と言いたげな顔のコルベールを無視し、ゼロ戦の燃料タンクを開き 固定化のおかげで化学変化を起こさずに僅かに残っていたガソリンの臭いをかがせた。 「ふむ…嗅いだ事のない臭いだ…温めなくてもこのような臭いを発するとは…… 随分と気化しやすいのだな。これは、爆発したときの力は相当なものだろう」 「火気厳禁だ。仮にこのタンクが満タンで、そこに少しでも火が入ると、この周りが吹っ飛ぶ」 「私が作った愉快なヘビ君に使ってた油では駄目なのかね?」 「ありゃ駄目だな。オレんとこじゃ石油っつーやつから精製したモンがガソリンになるんだが。こっちに石油はあんのか?」 「石油とだけ言われてもな…どういったものなんだね?」 「化石燃料…だったな。地下に埋まってるモンで『粘り気のある黒い液体』ってとこだ。もちろん燃えるが…そのままだと煙とかがスゲーって聞いたな」 一方こちら三人娘。科学的話をされてもサッパリ分からないので完全に放置食らっている。 「……今日の晩ごはんなんだろ」 「……よく、あの臭いをかいだ後でそんなこと言えるわね」 「……はしばみ草!」 「黒い燃える液体か…自然に湧き出したりするものかね?」 「普通、掘って採掘するもんだからな…無いとはいえねぇだろうが」 「とりあえずサンプルを採って私の研究室に来たまえ。それと…君達三人は分かってるだろうね?」 コルベールが妙に体を捻らせ三人を指差しつつ、ズキュゥゥゥゥンというような音を出しながら、三人娘に窓拭きを命じた。 研究室は本塔と火の塔に挟まれた一画にあった。お世辞にも綺麗とは言えない。むしろボロいという表現が適切な掘っ立て小屋である。 「自分の部屋では追い出されてしまってね」 そう説明されるが、この臭いだ。そりゃあそうだろうと思う。 回りを一瞥するが、、本棚や天体儀はまだいい。オリに入ったヘビやトカゲなどがいて、妙な異臭が漂いそれに顔を顰めた。 「なあに、臭いはすぐに慣れる。しかし、ご婦人方には慣れるということはないらしく、この通り独身なんだがね」 「ヤローでも慣れたくねぇよ…で、ガソリンなんだがどうにかなりそうか?」 「難しいな…石油というのがあれば錬金できるかもしれないが…それに近いものでもいい」 「化石燃料っつーぐらいだからな…こっちに石炭はあんのか?石炭も化石燃料のはずだぜ」 「石炭か…それなら用意できる…おもしろい!調合は大変だがやる価値はあるな!」 「頼む」 「しかし、東の地の技術は素晴らしい…私も何時の日か行ってみたいものだ」 「期待させたようでわりーが、こいつぁ別の世界の技術だ」 東の地という事で通してもよかったが、ガソリンの精製をやってくれる者に偽りで通すのは、恩を仇で返す事になる。 リスクはあるが、他のヤツにベラベラと話すようなタイプでもあるまいと判断し事実を話す事にした。 「別の世界…なるほど。確かに君が取ったミスタ・グラモンへの言動、行動、そしてその能力。その全てが我々ハルケギニアの常識から掛け離れている」 「あのマンモーニか…あいつにオレを平民だからっつーナメた理由で、殺す気があったからな。 悪いが見せしめも兼ねて始末させて貰った。ここのマンモーニどもじゃあ、ああでもしねぇと後が鬱陶しい」 ぶっちゃけ、コルベールの耳が痛い。彼自身はそうでもない方だが プロシュートが召喚されたとき、やり直しを要求したルイズを突っぱねて契約させたという理由がある。 貴族がいくら神聖だの、重要だの言ったところで、呼ばれた方からすれば、いきなり拉致され一方的に奴隷契約を結ばれるようなものだ。 命を救われたという恩義があったからよかったようなものの、そうでなければどうなっていたか分かったものではない。 魔法学院、下手すればトリステインは今頃老人の死体だけという事もありえただけに、少々背筋が寒くなった。 『炎蛇』の二つ名を持つコルベールであるが、何故か、過去に捨てたはずの軍人としての本能が『悪魔憑き』の能力の前には歯が立たないと警告している。 火を出した瞬間、死亡確定だからなのだが、体温の上昇で老化速度が変わる事はコルベールには知りようの無い事だ。 そう考えているコルベールを射抜くような目で見ているプロシュートに気付いたのか、話を戻す。 「私は、周りから変わり者だの、変人だの言われていて、未だに嫁さえこない。しかし…このコルベールには信念がある!」 いい年こいたオッサンが15の少年のような目をして熱く語り始めている姿を見て少し引いたが、言ってる方は構わず話を続ける。 「ハルケギニアの貴族は、魔法をただの道具……それでも使い勝手のいいような道具ぐらいにしかとらえておらん だが、私はそうは思わないのだよ。魔法は使い方次第で変わる。伝統や既存の考えに拘らず、様々な使い方を試してみるべきだとね」 それを聞いて、なにかわからんがコルベールが未熟ながらもエンジンを作れた理由を納得した。 能力の応用という、ここにおいては珍しい事ができる存在。 スタンド使いが最も必要とさせられる能力。それをコルベールは持っていた。 「能力の応用…ホルマジオがよく言ってる、くだるくだらねーは使い方次第って事だな」 「やはり君は別の世界の人間のようだね。そのホルマジオ君という人にも会ってみたいものだよ」 「……そいつぁ無理だ」 「別の世界だからなのだろう?分かっているよ。だが何時の日か君の世界との道を「違う」」 ちょっとトリップしているコルベールの言葉を遮る。 「……そいつはもう死んでるんでな」 「………拙い事を聞いてしまったようだね」 「気にするこたぁねー。…『覚悟』の上での結果なんだからよ」 組織から離反した事を後悔など微塵もしていない。 そんな事をすればホルマジオとイルーゾォの覚悟を汚す事になる。 「それで、ガソリンの他にもう一つ頼みてぇ事があるんだが…日食って何時起こるか分かるか?」 「日食…か。前に起こった時期を調べれば大体は特定できるだろうが…余裕があれば調べてみよう」 「つ…疲れた…」 よろよろとベットにボテっとルイズが倒れこむ。 そりゃあ学院の窓拭きやっていたのだから疲れも溜まるというものだ。 もちろんプロシュートは生徒でもないので、そんな事は知ったこっちゃあない。 「姫様の結婚式までもうすぐなのに…詔も考えなくちゃいけないのに…どうしよう」 「つまり、まぁ何も思いつかなくてヤバイってわけか」 ぶっちゃけ、どうでもいいため殆ど聞いていない。 「そうなんだけど…なにも思いつかないから困ってるのよ」 どうでもいい。と言おうとしたが、そんな事を言えば確実にこじれるので一応聞く事にした。 「じゃあ、考え付いたとこだけ言ってみな」 その後、ルイズが前文と各属性への感謝を読み上げるが 「そりゃ詩じゃなく、形容詞や諺だろ」 という突っ込みにあえなく爆沈させられたのは割愛させていただく。 ベッドに倒れたまま、床に藁の上に布を重ねた即席布団で寝ているプロシュートにルイズが尋ねた。 ちなみに、ベッドに寝ていいと言ったが 「んな事できるか」 の一言に一蹴させられている。 「組織ってとこで…何やってたの…?」」 「…どうしても聞きたいってのなら教えてやらねーでもないが…後悔すんなよ?」 「わたしは、あんたの使い魔なんだから…そのぐらい知っておく義務があるのよ」 少しばかり躊躇ったが、きっぱりと言った。 「暗殺だ」 「…あ、暗殺って…こ、殺すやつよね…人を」 「そりゃあな」 暗殺という言葉にビビったが、よくよく思い出してみれば 『ブッ殺すと心の中で思ったなら』発言などがあるために真実味があった。 「な、何で…そ、その…暗殺なんてやってたの…?」 「あそこで、生きるための手段だ。別に趣味でやってたわけじゃねぇよ」 趣味では無いと聞き安心したが、やはり殺しである事に少しだけ嫌な感じがする。 「それで、組織に信頼を裏切られて離反したんだったのよね…逃げようとは思わなかったの?」 「そこで逃げるようなヤツなら暗殺チームなんぞに属してねーよ。 殺すっつー『覚悟』を持ってるからには殺されるかもしれねぇっていう『覚悟』も持ってなけりゃあいけないんだからな…」 「…元の世界に帰っても…暗殺とか…するの?」 「さぁな、ボスが生きてたら報いを受けさせるために殺るだろうが…それが終われば、他人の命令で殺す気にはなれねぇな」 当然、リゾット達が生きていても、それに加わる気は無い。 そう言うとルイズがベッドから降り、即席布団の上で腕組んで寝ているプロシュートの横に寝てきた。 「狭いんだが、何やってんだ」 文句に答えずに、怒ったような声で続ける。 「わたしが、帰らないでって命令しても…帰るの?」 「あいつらは仲間通り越して家族みてーなもんだったからな。日食が来る時期が分かんねー。来れば、そん時決める」 「家族か…そりゃあ帰りたいわよね…」 自分とて家族、特にカトレアの安否が不明になればスッ飛んで駆けつけるはずだと思う。 だから、それ以上何も言えなかった。 しばらく沈黙が続いたが、片方が口を開いた。 「ま…オメーもペッシみてーなもんだからな」 要は弟分扱いなのだが、兄貴属性的に未熟な弟分を放って帰るってのもどうかと思い始めている。 短期間で成長させられればいいのだが、経験上それがそう巧くいかない事をよく知っているため、結構悩むところである。 ペッシ=マンモーニ扱いされた事により何らかのリアクションがあるかと思っていたがルイズはスデに夢の世界に突入して子供のような寝息を立てていた。 「……このマンモーニが」 ペッシと違うのは、ギャング的説教で叩き込めれないとこだ。 ギャング世界に漬かりきっていたため、それを封印して成長させるとなると結構な事だった。 数日後 トリステイン艦隊旗艦『メルカトール』号がラ・ロシェール上空に艦隊を率いて布陣していた。 艦隊戦を行うわけではない。新生アルビオン政府がゲルマニア皇帝とアンリエッタの婚礼に出席する大使を乗せた艦隊の出迎えに出ているのである。 「やつら遅いではないか。艦長」 そうイラついた声で呟いたのは、艦隊総司令『ラ・ラメー』 「獅子身中の虫ですからな。虫は虫なりに着飾っているのでしょう」 そう返すのは『メルカトール号』艦長フェイヴス。この男もアルビオン嫌いで通しているため似たような状態だ。 「左舷上方より艦隊接近!…確認しました。アルビオン艦隊旗艦『ロイヤル・ソヴリン』級…『レキシントン』です」 鐘楼に登った水平の報告に、ラ・ラメーと艦長がそちらを見ると、巨大な艦が後続艦を引きつれこちらに降下してきていた。 「あれが『ロイヤル・ソヴリン』か…なるほど、あの艦を奪われたのでは王党派が太刀打ちできんわけだ」 あえて、現在の艦名であるレキントンとは言わないのが彼なりの意地である。 「戦場では会いたくないものですな…こちらの戦列艦が小型艦艇のようにしか見えません」 「正面からぶつかればな…そうでなければ、やりようはある。……もっとも今砲撃されれば成す術は無いが」 「は…?今なんと?」 「いや、ただの杞憂だ」 砲撃云々の部分は、聞こえない程度の呟きだったのでフェイヴスには聞こえていない。 そこにアルビオン艦隊の旗流信号を確認した水兵が内容を報告した。 「レキシントンより旗流信号を確認しました。『貴艦ノ歓迎ヲ謝ス。アルビオン艦隊旗艦『レキシントン』号艦長』以上です」 「こちらは提督を乗艦させているというのに、艦長名義での発信とは…」 「あの艦があるにしろ…元々我が艦隊とアルビオン艦隊では 空挺戦力に差がありすぎるのだから仕方あるまい。返信だ。『貴艦隊ノ来訪ヲ心ヨリ歓迎ス。トリステイン艦隊司令長官』、以上」 『メルカトール』のマストに旗流信号がのぼるとアルビオン艦隊から大砲が一定の間隔を開け放たれた。 儀礼用の空砲だが、その空域の空気を震わせるのは十分だ。 「…よし、答砲だ。順に7発」 「よろしいのですか?最上級の貴族なら11発と決められておりますが」 「向こうは、艦長が旗流信号を出してきたのだろう?司令長官でもないのに11発撃つ必要はあるまい」 くだらない意地と言えばそうだが、フェイヴスもそれが気に入ったのかにやりと笑ってラ・ラメーを見つめると命令を出した。 「答砲用意!砲数7発、順次射撃!準備出来次第撃ち方初め!」 「ハルケギニア中に恥を晒す事になる…か」 そう低く呟くのはレキシントン号艦長ボーウッドだ。 正直、この作戦には乗り気ではないのだが、軍人である自分には命令に拒否権は無い。 まして、戦死したはずのウェールズもそれに関わっているとなると… 艦隊司令長官のサー・ジョンストンが何か喚いているが聞いていない。 実戦経験の無い司令長官など飾りもいいとこである。空なら自分がルールブックだ。 「左砲戦準備!気付かれるなよ」 「Sir!Yes Sir!左砲戦準備!」 それと同時に、轟音が鳴り響きトリステイン艦隊より答砲が放たれる。 「作戦開始だ!『ホバート』号乗員は速やかに退避!退避が完了し次第『ホバート』号を自沈させよ!」 その瞬間軍人の顔に変化した。ここまでくれば後戻りは出来ない。そうなればただ、作戦を遂行するのみである。 答砲を発射しているメルカトール号の艦上が騒がしくなる。 アルビオン艦隊、最後尾の旧型艦が炎上、轟沈したからだ。 「旗流信号を確認しました!『『レキシントン』号艦長ヨリ トリステイン艦隊旗艦。我ガ方ノ『ホバート』号ヲ撃沈セシ、貴艦ノ砲撃ノ意図ヲ説明セヨ』以上です!」 「撃沈だと!?馬鹿なッ!至急返信!『本艦ノ砲撃ハ答方ナリ。実弾ニアラズ」 そう送るが、すぐさまレキシントンより返答が返された。 「タダイマノ貴艦ノ砲撃ハ空砲ニアラズ。我ガ艦隊ハ貴艦ノ攻撃ニ対シ応戦セントス」 その瞬間ラ・ラメーが悟った。そして瞬時に命令を下す。 「…謀ったな!!全艦に伝達!砲撃に備えよ!!」 艦隊に指令が行き渡ると同時にアルビオン艦隊から轟音が鳴り響いた。 「て、敵艦発砲!!……『ニーベルング』!『ヴァレンシュタイン』!『ケルンベル』!被弾!!」 「こ、この距離で大砲が届くだと…!?閣下!至急アルビオン艦隊に砲撃の中止を!」 「…無駄だ。我々は奴らに嵌められたのだ!」 「では、応戦ですか?」 「我々は浮き足立っている…準備万端のアルビオン艦隊と浮き足立った我々では勝ち目はあるまい。降伏か撤退しかあるまいが…降伏は性に合わん、逃げる事にしよう」 続けざまにレキシントンから砲撃が撃ち込まれ各艦が被弾していく。旗艦は今のところ健在だが何時撃沈させられるか分かったものではない。 「伝達。『旗艦ガ最後列ニ残リ味方ノ撤退ヲ援護スル。各艦艦長ノ裁量ニヨッテ戦域ヲ離脱セヨ』…以上だ」 メルカトール号より右舷大砲が砲撃を行うが射程外からの砲撃だ、届くはずもない。 放物線描き数発着弾した砲もあったが、そんな勢いの無い砲弾ではレキシントンの分厚い装甲に阻まれ殆ど被害らしきものを出してはいない。 メルカトール号同様に残り撤退を支援する艦もあったが、次々と被弾し撃沈させられていく。 「『ヴァレンシュタイン』大破轟沈!『ホーランド』沈みます!」 次々と僚艦が沈められていくが、旗艦は各所に被弾しながらも未だ健在であり、何とか踏みとどまっていた。 しかし、火災を起こし火薬庫に引火するのも時間の問題である。 「…味方は脱出できたか?」 「『ロイヤル・ソヴリン』の砲の射程が思いのほか長かったため…脱出艦艇は約4割程度かと…その内、何隻が無傷かは…」 「…全滅よりはマシといったところだろう、本艦も退避命令を……」 そこに、トドメの砲撃が撃ち込まれ船体が大きく揺れた。 「…間に合わん…か、旗艦に乗り合わせた者には悪いことをしたな」 ラ・ラメーとフェイヴスが向かい合い敬礼をすると同時に甲板がめくりあがりメルカトール号が爆沈した。 「思いの他、敵艦隊の行動が早かったですな」 被弾しながら射程外に離脱していくトリステイン艦隊を見送りながら、上陸作戦の指揮を取るワルドが呟いた。 「の、ようだな子爵。だが、旗艦を初め主力艦をほとんど撃沈したのだ。 すでに勝敗は決した。…しかし、制空権を抑えておきながら、あの作戦にレキシントンを使う必要があるのかね?」 「恐らくガンダールヴも出てくるでしょう。ヤツの奇妙な魔法ならレキシントンがいくら巨大でも数分で制圧されますな」 「それほどのものかね…」 「それに、私が新たに召喚した使い魔ならばレキシントンなど無くとも、十分です」 そこにレキシントン号の艦上から万歳の叫びが聞こえボーウッドが眉をひそめる。司令長官のサー・ジョンストンまでそれに混じっているのが拍車をかけた。 「トリステインの司令長官は、乗艦を犠牲にしてまで味方の撤退を支援したというのに、我が方の司令長官がアレではな…」 戦力そのものの差と奇襲という戦術上の優勢、それが無ければどうなっていたかと思い、思わずそう呟く。 「艦長、彼が来たようです。御紹介した方がよろしいですかな?」 「ああ、頼む」 扉が開きボーウッドが視線をそちらに向けると、アルビオン艦隊司令長官よりも長官らしい佇まいの人影が入ってくるのを見た。 トリステイン艦隊 ― 大破轟沈6割 残存艦艇中 中破4割 小破5割 健在艦艇1割 司令長官ラ・ラメー以下旗艦『メルカトール』号乗員全員『戦死』 閃光のワルド ― ザ・ニュー使い魔! 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/541.html
予想外の出来事が起こると、思考は活動を停止する。 それはトリステイン魔法学院の貴族達ですら例外でなかった。 ギーシュも、ルイズも、キュルケも、シエスタも。 ただ一人、ジョセフだけが怒りに満ちた眼差しでギーシュを見据えていた。 「……何だね、これは?」 足元に落ちた手袋と、それを投げ付けた平民の老人を交互に見やりながら、ギーシュは静かに言葉を発した。 人は怒りが頂点を突き抜けると、逆に精神は平静に近付くのだという。 この人の輪に加わっている少年少女達は“真の怒り”という言葉の意味は知っていても、それを目の当たりにすることは初めてだった。 だがジョセフはその怒りを見てもなお……いや、むしろ更に怒りを掻き立てるように、口元を笑みの形に歪めた。 「その年で耳が遠くなっとるんならお先真っ暗じゃのォ。じゃあもう一回お前さんの頭でもわかるようにゆゥ~~~~~っくり言ってやろう。 わしゃあお前に決闘を挑んだと! そう言っておるッッ!!」 その言葉に生徒達は、段々と意識を現実に戻してきていた。速度は人それぞれではあったものの、それは静かな水面に小石を落として生まれた波紋のように、彼らに興奮を生み出した。 「け……決闘だッ!」 「それも、平民から貴族にだぞ!」 「有り得ないッ! そんなの見たことねェッ!」 「こいつぁ見物だぞ!?」 そして興奮は、僅かな時さえ置かずして、熱狂を呼び込んだ! 「ちょっ……ちょっと待って! そんなの私が認めないわ! ナシよナシ、そんなの無効だわ!」 人よりやや遅れて正気に返ったルイズが、懸命に間に割って入ろうとした。 が、もはやゼロのルイズ一人の叫びは、食堂にいる全員の歓喜の前には、嵐に対する蚊の羽音程度の意味しか持っていなかった。 ただでさえ体面とプライドを重んじるギーシュが、度重なる侮辱を受けて黙っていられるはずもなく。 退屈な学園生活に飽き飽きしている生徒達が、降って沸いた一大イベントを黙って見逃すはずもなく。 ルイズの言葉は、この場の誰にも届くことはなかった。 「いいだろう……平民風情が貴族に楯突く事がどういう結果をもたらすか、その耄碌した頭に叩き込んでやるッッ!! 二十分後、ヴェストリの広場に来るがいい!」 去り際に、足元に落ちていた手袋を踏みにじり、そしてジョセフの足元へ蹴り飛ばしてからギーシュは足音も荒く生徒達の輪を潜り抜けていった。 ジョセフはくっきりと足跡の付いた革手袋を手に取ると、ズボンではたいて埃を落としてから、義手に手袋を被せようとしたところで。 「こッ……この、ボケ犬ぅぅぅぅぅぅ!!!」 ルイズに臑蹴りを食らった。 「ぐぉ!? あいっちぃ~~~~~。何するんですじゃご主人様!」 蹴られた臑を押さえてぴょんこぴょんこ跳ねながら、ジョセフは形ばかりの抗議をした。 「それはこっちのセリフよボケ犬!! 何勝手に決闘なんて申し込んでるの!? 今からあたしが一緒についてって謝ってあげるから今すぐギーシュを追いかけるのよ!」 「ああ、そりゃあ無理な相談ですなあ。向こうも今更謝られたくらいで許すはずもありませんしなあ。それに……」 茫然自失、という単語をその身で表わして、ただ跪いたままジョセフを見上げているシエスタに視線をやり、ジョセフは静かに言葉を紡いだ。 「何があったのかわしゃ全く知りませんが、あのお坊ちゃんはわしの友人を侮辱した。そいつぁどう逆立ちしても許せることじゃあありませんのでな」 「だからって! 平民が貴族に決闘なんか挑んだって勝てるわけないじゃない! ドットだけれどギーシュはれっきとしたメイジなのよ!? ドラゴンにしなびたニンジンが決闘挑んでるのと同じくらいのことをアンタはしてるのよ!?」 ジョセフはルイズの懸命な主張を聞きながらも、改めて義手に手袋を被せ。そして逆に、ルイズに問い返した。 「ではご主人様は、『ゼロのルイズ』とバカにされて怒りはせんと言うのですかな? あのお坊ちゃんはそれだけのことをしたのだ、とわしは申し上げているのですが」 その言葉は効果覿面だった。 ルイズは瞬時に頭に血を上らせると、その小さな拳でジョセフのボディにストレートを叩き込んだ。 「もう知らないッッ!! アンタなんかギーシュに殺されちゃえばいいのよッッ!!」 そう吐き捨てて、ルイズは生徒達の輪を駆け抜けていった。 目端の利く連中は早速ヴェストリ広場に向かい、観戦に適した場所を取りに走っていた。これから生徒達の退屈しのぎの生贄となる老人を興味深げに見ていた生徒達は、これから数分後に生徒達が集まった広場を見て、自分の迂闊さを呪うハメになるだろう。 ジョセフはルイズに殴られた腹を軽く摩りながら、未だに呆然としたままのシエスタに手を差し伸べた。 「いやはや、災難じゃったのうシエスタ。ケガはしとらんか?」 差し出された手とジョセフを見上げていたシエスタは、やっと正気を取り戻すと、思わずジョセフの太腿にしがみ付いた。 「ジョ……ジョセフさんっ! あっ、あ、あの……! 殺されます! 今すぐ……今すぐ、ミスタ・グラモンに謝りにっ……! 私が、私が粗相したのですから、私さえ罰を受ければいいだけの話なんですからっ……!」 半ば錯乱したシエスタを見たジョセフは、シエスタと同じ目線にまで跪いたかと思うと、彼女の背に太い両腕を回し、緩く抱きしめた。 突然の行為は、突然ジョセフが決闘を挑んだ時と同等の鼓動をシエスタにもたらした。 「なぁに、心配などしてくれんでいい。わしはさっきも言ったが、経緯はどうあれアイツはわしの友人を侮辱した。友人を侮辱されて黙ってられるほど、わしは人間が出来ちゃおらんのじゃ」 力強いジョセフの腕に抱かれている今と、今日会ったばかりの自分を友人と呼んで、自分が侮辱されたからと決闘まで挑んだという事実。 シエスタの心には、まるで乾燥しきった砂漠に水を垂らしたかのように、ジョセフの存在が早く強く染み込んでしまった。 錯乱していた心も、この強い腕なら何とかしてしまうのではないか……そんな錯覚にさえ捕われて、安堵し、落ち着いていった。だが現実がそんなに甘く行かないのは知っている。メルヘンやファンタジーみたいに都合よく行かないのは、良く知っている。 けれどシエスタは、心の中に渦巻く沢山の言葉を飲み込んで。どうしても言わなければならない言葉だけを、返した。 「…………お怪我なんか……されたら、イヤです。必ず、必ず……御無事に、戻ってきてくださいっ……」 感極まってジョセフの胸に顔を埋めるシエスタを、ジョセフは優しく頭を撫でてやった。 「すまんが、ちょっと決闘する前に腹ごしらえなぞしたいんじゃが。ちょっと余り物でええから分けてくれたら嬉しいのう」 波紋で空腹が紛れているとは言え、食うと食わないとではやはり気分が違う。何より、先程食べた脂身の旨さに、粗食を続けているのがどうにもバカらしくなったというのもある。 シエスタはその言葉に、小さく吹き出して。頬に流れていた涙を袖で拭うと、勢い良く立ち上がった。 「でしたら……厨房に行けば賄いがあるはずです。私から事情を話して、分けてもらいましょう」 「おお、それは有難い。ではお言葉に甘えて御馳走になりに行くとするかの」 そう言いながらシエスタの後ろについていきながら、はた、とこれまでの演技が全部台無しになったことに気付いた。 (あっちゃー。丸一日掛けてお嬢ちゃんにわしがただのボケ老人だと信じ込ませたというのに、ついついやっちまったぁ~~~。かと言ってあんのクソガキにわざと負けるなんてシャク過ぎるわいッ。しょうがない、こうなったらヤケじゃッ) 厄介事から遠ざかる為の策略を自分の手でぶち壊した。だがたとえ本当にシエスタが一方的に悪かったとしても、自分の友人があんな扱いを受けているのを黙って見逃したら、ジョースターの人々が自分を許してくれるはずもない。 他の誰あらぬ、ジョセフ・ジョースターが許すはずもないッ! 厨房につくと、既に騒ぎはここまで到着していたことを二人は知った。 「このトリステイン魔法学院史上初めて貴族に喧嘩を売り付けた平民」であるジョセフは、異様なまでの大歓迎を以って厨房に受け入れられた。 中でも一番の歓迎を見せたのが、コック長であるマルトーだった。 えらくトッピングの多いシチューを持ってきながら、帰ってきたら何が食べたいか、と冗談半分に聞いて来た彼に、ジョセフはフライドチキンをリクエストした。 「帰って来た頃にゃ揚げたてが食べられるじゃろ。腕に選りをかけといてくれ」 ジョセフの言葉を彼一流の大口だと受け取ったマルトーの好感度が飛躍的に上がったのは、言うまでもない。 シチューを食べ終わったジョセフは、シエスタに伴われて広場へと向かう。 普段は閑散としている広場は、噂を聞きつけた学院中の生徒達で溢れており、姿を見せたジョセフに嘲笑交じりの歓声を上げた。 貴族同士の決闘は禁じられているとは言え、これは平民と貴族との決闘である。そしいて平民から挑んだ決闘を貴族が受けた以上、平民がどうなってもいいということである。 これから始まるカーニバルを期待する生徒達に、シエスタは怯えを見せたものの、ジョセフはあくまでも泰然とした様子を崩すことはなかった。 「よく来たな平民! 覚悟は済ませてきたんだろうな!?」 生徒達の輪の中心で、着替えを済ませてきたギーシュが待ち構えている。 ジョセフは悠然と立っているギーシュを見やると、帽子のつばを軽く指先で押し上げた。 「抜かすな、クソガキが。出来の悪いガキを叱るのは年寄りの仕事じゃよ」 To Be Continued →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/196.html
覚悟は出来てるか? 俺は出来ているッ!! 亜空の使い魔 「キサマなああんぞにィィィィィィーッ……」 満身創痍のヴァニラ・アイスッ 彼方此方から血を流し右腕と右足、それぞれ肘と膝から下が綺麗に消し飛び あまつさえその断面からは煙のようなものが出ていたが 日光の中、同じく満身創痍で膝を付くポルナレフに向かい吠える しかしッ 「地獄でやってろ」 ドンッ ポルナレフのスタンド―シルバーチャリオッツ、甲冑を着た銀色の騎士の肩がヴァニラにぶつかり、DIOの血で吸血鬼となった狂信者は、文字通り塵となった 塵になった者はどうなるのか?それはスタンド、クリームの亜空間に消えた者の行方同様に分からない しかし 「ぐぁああああッ!?」 「きゃっ!」 ヴァニラ・アイスは突然左手を襲った焼け付くような痛みで覚醒する 「な、何だこれはッ!左手に文字が!!」 まるで焼印を押されたようなこの痛みッ! しかしそれ以上の衝撃が彼を襲う 「右手があるだと!?」 紫外線を浴び消し飛んだはずの右腕が、右足がッ しっかりと存在し、それどころかチャリオッツに刺された傷も何処にも見当たらない 「おいおいルイズ!平民どころかそいつ頭がおかしいんじゃないのか?」 「さすが『ゼロ』ッ!俺たちにできないことを平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるぅ!」 ヴァニラを遠巻きに囲むよう不規則に並んだ子供、その中のから野次が飛ぶ それは半分は自分に向けられたものだったがもう半分は誰か別の人物へ向けたもの しかしその疑問を口にする前にその答えは見つかった 「うるさいわね! ちょっと間違っただけよ!」 「間違いって、ルイズはいっつもだろ!」 「『ゼロ』のルイズは失敗が当然なんだからな!」 目の前で尻餅をついたピンク色の髪の少女、どうやらルイズというらしい 「おい女ッ!ここは何処だ?DIO様は何処にいるッ!!」 ヴァニラの迫力に思わず気圧されるが直ぐに 「ご主人様に向かってその口の利き方は何よ!」 「ご主人様?私がお仕えするのはDIO様だけだッ 質問に答えろ!!」 少女を締め上げようと手を伸ばすが、 「ミス・ヴァリエール!そこまでです!みなさん。今日はここでおしまいです。解散!!」 U字禿の男の言葉に遮られタイミングを逃してしまった 野次を飛ばしていた子供たちもぞろぞろと遠くに見える城の様な建物へ向かい歩いて行き、 ゼロのルイズと呼ばれていた少女も溜息をつき立ち上がる 「・・・・アンタ、名前は?」 「名前?ヴァニラ・アイスだ、それより質問に」 「ヴァニラ?変な名前ね・・・まあいいわ、来なさい。色々説明して上げる」 ルイズはそれだけ言うとヴァニラの返事を待たず、さっさと歩き出してしまった 一人取り残されたヴァニラはにわかに翳り出した空と、そこに浮かぶ何故か自分の身体を焼かない太陽を見上げ呟く 「DIO様、私はこれからどうなるのでしょうか・・・?」 己の命さえ投げ出し忠誠を誓った主の顔を思い浮かべ、一先ずあの少女から話を聞こう。そう自分を奮い立たせヴァニラは立ち上がった To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1514.html
ある日の事だ。 平賀才人が命じられた部屋の掃除をしていた時、偶然にもそれを見つけ出した。 革で出来たベルト…それは紛れもなく『首輪』だった。 顔中を流れる嫌な汗。 以前、キュルケの部屋を訪れた際、ルイズが言っていた言葉を思い出す。 『……今度、こんな真似したら首輪を付けるわよ』 あれは本気だったのか。 だが自分には怒られるような事をした記憶はない。 それとも知らない間に、ルイズの癇に障るような事をしでかしてしまったのか。 首を握り締めたまま、才人は理不尽な暴力に打ち震える。 「……あれ?」 ふと気付く。 自分用に買ったにしてはあまりにも小さすぎる。 それこそ本当に犬用の物とサイズが変わらない。 その上、その首輪はボロボロで少し力を入れただけでも千切れそうだ。 「あーあ、とうとう見つけちまったか」 壁に立て掛けてあったデルフリンガーの声が部屋に響く。 その声はどこか過去を懐かしむようでもあり寂しげにも聞こえた。 「これが何か知ってるのか?」 「ああ、知ってるとも。俺の前の相棒の物さ」 嬢ちゃんも口には出さなかった。 他の連中も何も言わなかった。 話さずに済むのなら、それに越した事はなかった。 彼の前任者、ルイズの使い魔であった奇妙な来訪者の事を……。 世界とは自分の認識できる範囲に過ぎない。 知らなければ、それは存在しないのと同じだ。 だから、この狭い実験室こそが彼の世界の全てだった。他には何も無い。 人の命さえも道具と見なす彼等の実験動物に対する扱いは過酷を極めた。 遺伝子操作を行い、あらゆる環境の変化に耐えられる生命を作る実験など、 医学の発展の為という範疇から外れた異常な研究がそこでは続けられていた。 ここまで生き延びてきた実験動物も数えるほどにしかいない。 そして今日、彼の最後の仲間が死んだ。 レーザーで全身を撃ち抜かれた上に、火炎放射器で焼却されたのだ。 今や形さえも残っていない。 数日経っても空いたままの仲間の檻を眺めて、 ここには二度と戻ってこない事を彼は悟った。 彼の本能が“次は自分の番だ”と告げていた。 だが抗った所でどうにもならない。 命も運命も全て他人の手の平の上。 仲間同様に注射を打たれ、水槽の中へと沈められていく。 彼が目覚めた時、その時こそが命の終わる時なのだ。 …だが『ドレス』の崩壊と共に彼の運命は解き放たれた。 彼が目覚めた場所、それは見慣れた実験室の中だった。 自分を閉じ込めていた水槽は砕け、辺りは水浸しになっていた。 周りには誰もいない。 それどころか壁には見た事もない巨大な穴が開いている。 恐る恐る穴へと近づいていく。 初めて目にする部屋の外の景色。 実験室とは代わり映えのない風景だったが、 それでも彼の目には一筋の希望が見えた。 “ここから出られるかもしれない” それは生きる為の脱出。 この先に何があるのかは分からない。 それでも何もしないで死ぬのを待つよりは遥かにマシだ。 廊下を駆ける。それを咎める者など誰もいない。 鳴り響くサイレンの中、赤く明滅するランプが周囲を照らす。 どこまでも続くかのような錯覚の中、彼は走り続けた。 …だが、その道は途切れていた。 降りた隔壁が完全に向こう側を遮断している。 壁へと爪を立てる。 だが、そんな物で鋼鉄をどうにかできるはずがなかった。 初めから希望など無かった。 この道はどこかに続いていると信じていた。 でも、どこにも繋がってなどいなかった。 元来た道を振り返るが、それも叶わない。 建物中に響き渡る爆音。 そして炎と爆風が周囲を飲み込んで迫り来る。 目前の隔壁と背後から近づく明確な死。 逃げ場など何処にも無い。 絶望の中、彼は壁に出来た巨大な隙間を目にした。 さっきまでこんな物は無かった。 だが、そんな事はどうでもいい。 一か八か最後の勇気を振り絞り、彼はそこへと飛び込んだ。 「宇宙の果てのどこかにいる私の下僕よ! 神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ!」 キュルケやモンモランシーの前で啖呵を切った手前、失敗は許されない。 自分を見つめる視線の多くが“どうせ失敗するだろう”という揶揄や嘲笑だという事も分かっている。 『ゼロのルイズ』…その名で呼ばれる度、何度歯を食いしばって耐えただろうか。 だけど今日から違う。二度とその名を呼ばせはしない。 サモン・サーヴァントに成功し、一人前の魔術師として歩みだすのだ! 「私は心より求めうったえるわ! 我が導きに答えなさい!」 詠唱と共に振り下ろされる杖。 それと同時に巻き起こる大爆発。 いつも通りの結果に咳き込みながらも失笑が起こる。 そう。ここまではいつも通りの結果だった…しかし。 「……おい。嘘だろ」 「そんな…ありえない」 視界を覆う砂埃が静まるにつれ失笑が止んでいく。 代わりに響き渡るのは周囲のどよめき。 何度も目を疑うがその光景に変化はない。 ルイズが引き起こした爆発の中心、そこには気絶した一匹の犬がいた。 それは紛れもなく彼女の召喚が成功した証。 「……やった。やったわ」 思わず口から洩れる歓喜の声。 打ち震える感動に両の拳を力強く握り締める。 キュルケのサラマンダーには及ばないけど、これだって立派な使い魔だ。 もう誰にもゼロなんて呼ばせない。 「ミス・ヴァリエール。 嬉しいのは分かりますが授業の時間も押していますし、早く契約を済ませてください」 「はい! 先生」 満面の笑みで応える。 使い魔へと歩み寄る足取りも軽い。 まるで別の自分に生まれ変わったよう。 いいえ、違うわ。これこそが私。 『ゼロのルイズ』じゃない本当の『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』。 その私の使い魔が今、眠りから目覚める。 あまりの眩しさに目を覚ます。 そして顔を上げて辺りを見回した。 どこまでも続く廊下も絶壁のような隔壁もない。 いや、そんな事など一瞬で忘れてしまった。 目覚めた時、世界は大きく変わっていた。 薄暗い照明は燦々と輝く太陽に、 白一色だった天井は澄みきった青空に、 冷たく無機質だった床は柔らかく心地よい芝生に、 そして世界を覆う壁など存在しない。 地面も空もどこまでも果てしなく広がっている。 “なんて……美しい” 思わず息を呑む。 彼は初めて研究所以外の世界を知ったのだ。 体中を駆け巡る興奮に、いてもたってもいられず走り出した。 目の前の景色が幻でない事を確かめるように、ただがむしゃらに駆け回る。 「こら! 待ちなさい!」 目の前で逃げ出した使い魔に唖然としていたルイズ。 だが、すぐさま大声を上げて後を追いかける。 「はは、見ろよ。ルイズの奴、使い魔に逃げられてやんの」 「やっぱルイズは『ゼロのルイズ』のままだよな」 周りから湧き上がる爆笑の渦。 傍から見れば主人と使い魔の追いかけっこ。 見世物としては珍しく面白いものだった。 キュルケの口から“やれやれ”と溜息が洩れる。 まあ、少なくとも召喚に失敗して学院にいられなくなるという事はなくなった。 使い魔に多少の問題はあるようだけど、それはいつもの事。 溜息に安堵の色が混じっていた事は秘密にしておこう。 走る。ひたすらにどこまでも走り続ける。 息が切れるのも構わない。 澄んだ空気を肺に取り入れる度に力が湧いてくる気がした。 存分に駆けずり回った後、芝生に横になる。 新たな世界を思う存分満喫した彼は思う。 ここは別世界だ。 運命を支配する残酷な手も存在しない。 この世界はこんなにも生命に満ち溢れている。 そう、自分は生きている。 今までは自分の『生』などというものはなかった。 だが今は確かに生きている実感がそこにあった。 生きている、それだけの事がとても素晴らしく思えた。 「ようやく追いついたわ!」 掛けられた声に振り返る。 桃色の髪と黒いローブ。 薬品の匂いも金属の匂いもしない、 彼が初めて目にした『人間』の姿がそこにはあった。 世界を越えた一人と一匹の出会い。 それが後に語られる事なく消えていった使い魔の冒険、その始まりだった……。 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2223.html
ゼロと使い魔の書 第五話 今向かっているのは「アルヴィーズの食堂」というところらしい。平民かつ使用人でもないところの自分は今までの経験から入れない、 と考えたが、昨日申し渡された職務内容には主人の身を守るという項目も含まれていた。だから何か言われるまで傍に付き添っている事にした。 食堂には長いテーブルが3つ置かれ、それぞれ異なる色のマントの生徒が食事をしている。果物かごも花瓶も刺激の強い配色で、正直趣味を疑う。 それらは大体想像通りの光景だった。 だが肝心の内容は自分の思っていたようなものではなかった。 「腹壊さないのか」 「ん?なんで?」 「いや、なんでもない」 どうやらディナーで通るような食卓が、貴族にとっては普通の朝食らしい。 主人が空いている席の前に立つ。イスを引いたら満足そうな顔で座った。これも想像がついていた。 ルイズが目の前の食事に気を取られている一瞬、テーブル上の果物ナイフを一本袖の下に入れておいた。 「あんたは床ね。そこにある貧相な……ってあれ、タクマ?」 後ろで何か主人がのたまっていたのが聞こえたが、あれを食べる気にはならなかった。味は記憶でどうにでもなるが栄養素が絶対的に足りない。 食べる時間を食料調達に費やすべきだろう。そして周りの生徒が自分の使い魔を待機させてない以上、自分がルイズの傍にいる必要もない。 食堂から出る間際、振り返った。ルイズはまだ自分のことを探しているようだった。あの貧相な食事をどうするのか気になったが、戻る気にもなれず自分が召還された草原への道を歩いた。 目的地に到着すると、まず野兎がのんびりと歩いているのが目に入った。 保存食に加工すればあれで数食分のたんぱく質が確保できる。 左手でナイフを持ち、投げようとした、が途中で動作を中断した。 この世界に来たと同時に刻印された左手甲の文字が光りだしたのだ。それと同時に体が羽のように軽くなり、筋力が増強されたのを感じた。 素直には喜べない。ナイフスローイングというのは力が強ければナイフのミートポイントがずれてしまうのだ。柄が当たったって何の意味もない。 完成された投擲術を持つ自分に、この特典はありがためいわくだった。 予定を変更した。数回投げる練習をした後食料を確保することにする。 辺りを見回し、森へと通じる道の途中で刺さりやすそうな大木を見つける。初めは5メートルでいいだろう。 呼吸を整え、投げた。 空気を切り裂く鋭く高い音が鳴り、重量のある刃を中心に一回転した後、やや前傾に大木に刺さった。金属製の刃が振動する音がここまで聞こえてきた。 しかし、ここで予想外の出来事が起こった。勢いが死ななかったらしく、本来投げる用途で作られていない果物ナイフの柄が刃からすっぽ抜けてしまったのだ。どうやら自分は恐ろしい力で投擲していたらしい。 内心舌打ちした。流石に刃だけではどうしようもない。 見ると、もう野兎はどこかへ消えてしまっていた。 これからどうするか。 貴族のものに囲まれ明らかに浮いている食事とも呼べないような食事はとっくに片付けられてしまっているだろう。となると、朝食は抜きでほぼ確定。 食堂から出て行ったことの言い訳を考えながら、刺さったナイフの刃と飛んでいった柄を回収し、城への道を歩き出した。 食堂の入り口に着くと、中に入ろうとして、思いとどまった。 「頼ってみるか」 他人に頼るなんて数えるほどしかなかった自分であるが、あのメイドの少女に名前を伝えなければならないこともあり、どちらにせよ厨房には顔を出さなければならない。 ならついでにまかない食を恵んでもらうのがこの際一番だろう。 The Bookを呼び出し、どのように頼めばいいか検索しようとしたが、止めた。そんな簡単な文句一つ思いつかない自分にため息が出た。 「もう……あの馬鹿!」 床の上の固いパンと薄いスープを見つめながら、ルイズは一人愚痴っていた。 正直なところ、自分の使い魔、タクマは口調さえ変えればどこの屋敷の執事でもやれそうなくらい有能だった。よくやってくれている。 だからルイズも床の上の茶色いものだけで済ませるつもりではなかった。 自分の分の横の小皿に取り分けられた鶏肉のソテーとサラダを見る。貴族と平民の格差を見せ付けた後、労をねぎらって渡すつもりだった。 しかしあいつは自分が言う前に床の上の色のない食事に気づいてしまったらしい。イスを引くや否や、どっかに消えてしまった。 「……そりゃ、私もちょこっとは悪いかもしれないけど!でも!勝手に蒸発する使い魔も使い魔よね!」 自分に言い聞かせるように呟くと、粗末な食事を下げるように給仕に言いつけた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2224.html
ゼロと使い魔の書 第五話 今向かっているのは「アルヴィーズの食堂」というところらしい。平民かつ使用人でもないところの自分は今までの経験から入れない、 と考えたが、昨日申し渡された職務内容には主人の身を守るという項目も含まれていた。だから何か言われるまで傍に付き添っている事にした。 食堂には長いテーブルが3つ置かれ、それぞれ異なる色のマントの生徒が食事をしている。果物かごも花瓶も刺激の強い配色で、正直趣味を疑う。 それらは大体想像通りの光景だった。 だが肝心の内容は自分の思っていたようなものではなかった。 「腹壊さないのか」 「ん?なんで?」 「いや、なんでもない」 どうやらディナーで通るような食卓が、貴族にとっては普通の朝食らしい。 主人が空いている席の前に立つ。イスを引いたら満足そうな顔で座った。これも想像がついていた。 ルイズが目の前の食事に気を取られている一瞬、テーブル上の果物ナイフを一本袖の下に入れておいた。 「あんたは床ね。そこにある貧相な……ってあれ、タクマ?」 後ろで何か主人がのたまっていたのが聞こえたが、あれを食べる気にはならなかった。味は記憶でどうにでもなるが栄養素が絶対的に足りない。 食べる時間を食料調達に費やすべきだろう。そして周りの生徒が自分の使い魔を待機させてない以上、自分がルイズの傍にいる必要もない。 食堂から出る間際、振り返った。ルイズはまだ自分のことを探しているようだった。あの貧相な食事をどうするのか気になったが、戻る気にもなれず自分が召還された草原への道を歩いた。 目的地に到着すると、まず野兎がのんびりと歩いているのが目に入った。 保存食に加工すればあれで数食分のたんぱく質が確保できる。 左手でナイフを持ち、投げようとした、が途中で動作を中断した。 この世界に来たと同時に刻印された左手甲の文字が光りだしたのだ。それと同時に体が羽のように軽くなり、筋力が増強されたのを感じた。 素直には喜べない。ナイフスローイングというのは力が強ければナイフのミートポイントがずれてしまうのだ。柄が当たったって何の意味もない。 完成された投擲術を持つ自分に、この特典はありがためいわくだった。 予定を変更した。数回投げる練習をした後食料を確保することにする。 辺りを見回し、森へと通じる道の途中で刺さりやすそうな大木を見つける。初めは5メートルでいいだろう。 呼吸を整え、投げた。 空気を切り裂く鋭く高い音が鳴り、重量のある刃を中心に一回転した後、やや前傾に大木に刺さった。金属製の刃が振動する音がここまで聞こえてきた。 しかし、ここで予想外の出来事が起こった。勢いが死ななかったらしく、本来投げる用途で作られていない果物ナイフの柄が刃からすっぽ抜けてしまったのだ。どうやら自分は恐ろしい力で投擲していたらしい。 内心舌打ちした。流石に刃だけではどうしようもない。 見ると、もう野兎はどこかへ消えてしまっていた。 これからどうするか。 貴族のものに囲まれ明らかに浮いている食事とも呼べないような食事はとっくに片付けられてしまっているだろう。となると、朝食は抜きでほぼ確定。 食堂から出て行ったことの言い訳を考えながら、刺さったナイフの刃と飛んでいった柄を回収し、城への道を歩き出した。 食堂の入り口に着くと、中に入ろうとして、思いとどまった。 「頼ってみるか」 他人に頼るなんて数えるほどしかなかった自分であるが、あのメイドの少女に名前を伝えなければならないこともあり、どちらにせよ厨房には顔を出さなければならない。 ならついでにまかない食を恵んでもらうのがこの際一番だろう。 The Bookを呼び出し、どのように頼めばいいか検索しようとしたが、止めた。そんな簡単な文句一つ思いつかない自分にため息が出た。 「もう……あの馬鹿!」 床の上の固いパンと薄いスープを見つめながら、ルイズは一人愚痴っていた。 正直なところ、自分の使い魔、タクマは口調さえ変えればどこの屋敷の執事でもやれそうなくらい有能だった。よくやってくれている。 だからルイズも床の上の茶色いものだけで済ませるつもりではなかった。 自分の分の横の小皿に取り分けられた鶏肉のソテーとサラダを見る。貴族と平民の格差を見せ付けた後、労をねぎらって渡すつもりだった。 しかしあいつは自分が言う前に床の上の色のない食事に気づいてしまったらしい。イスを引くや否や、どっかに消えてしまった。 「……そりゃ、私もちょこっとは悪いかもしれないけど!でも!勝手に蒸発する使い魔も使い魔よね!」 自分に言い聞かせるように呟くと、粗末な食事を下げるように給仕に言いつけた。